【7/8(水)開催】学科紹介イベント「サイエンスグローブ」のお知らせ

2026-05-27
【学部1年生向けイベントのお知らせ】

理学部物理学科は7月8日に学科紹介イベント「サイエンスグローブ」を開催します。今年のテーマは素粒子物理学研究。物理学科に関心のある学生さんはもちろん、物理のお話をちょっと聞いてみたいという学生さんもお気軽にご参加ください。

この宇宙は「ホログラム」か?ー量子重力理論への招待ー

素粒子とは万物の最小構成要素のことです。素粒子論はこうしたミクロな素粒子の世界の物理法則を明らかにしようとするものです。その中でも、素粒子と重力を統一的に説明する量子重力理論は、いまだ完成しておらず、その完成は物理学の重要な課題です。

この講演では、素粒子論を概観し、素粒子を粒子ではなく「ひも」として考える弦理論や、この世界はより低い次元のホログラムであるというホログラフィー原理などの量子重力理論の話題を紹介します。
話題提供 杉下 宗太郎 (素粒子宇宙理論研究室 准教授)
日 時  2026年7月8日(水) 18:15-19:34
場 所  総合教育棟 N1教室
参加方法 参加自由・事前申し込み無し
※参加者には絶対零子をデザインしたノベルティ菓子と飲み物を配布予定

この宇宙は「ホログラム」か?ー量子重力理論への招待ー

開催報告

7月8日(水)の18時15分から、学部生向けイベント「サイエンスグローブ2026」を実施しました。講師は素粒子宇宙理論研究室の杉下宗太郎准教授で、タイトルは「この宇宙は「ホログラム」か?―量子重力理論への招待―」です。杉下先生

杉下准教授の専門分野は素粒子論。「この世界の基本法則を明らかにすること」が研究の目的です、と語ります。初学者にもイメージがつかめるよう、なるべく数式ではなく言葉で説明しますと前置きした上で、素粒子論の歴史からお話が始まりました。

冒頭
(難しい内容を、聴衆にわかりやすくかみ砕いてお話していただきました。)

「素粒子」のアイディアの始まり:素粒子標準模型が生まれるまで

物質は原子でできており、原子はさらに電子・陽子・中性子からできています。現在ではその陽子・中性子も、さらに小さな「クォーク」という粒子からできていることがわかっています。

その出発点は「なぜ原子核はバラバラにならないのか」という疑問でした。プラスの電気を持つ陽子同士は本来反発するはずなのに、なぜか原子核としてまとまっている——ここから「未知の強い力(核力)」の存在が考えられました。1934年、湯川秀樹氏はこの核力が「質量を持つ未知の粒子のやりとり」によって生まれると予言し、実際にその粒子(π中間子)が発見されます。力が素粒子によって媒介されるというこの考え方は、後の素粒子論の基本となりました。

その後、実験技術が進歩すると100種類近い新粒子が次々に見つかり収拾がつかなくなってしまいました。しかし、これらは少数の基本粒子であるクォークと、それらの組み合わせでできた複合粒子として整理できることがわかり、これが「クォーク模型」として提案されました。さらに研究が進み、電子や電磁気力を扱う「量子電磁力学(QED)」、クォーク同士の強い力を扱う「量子色力学(QCD)」が確立され、最終的には (1) 物質を作る「クォーク」「レプトン」、(2) 力を伝える「ゲージ粒子」、(3) 質量を与える「ヒッグス粒子」からなる素粒子標準模型が完成しました。全17種の素粒子のうち、当時既に見つかっていたのは一部だけでしたが、その後続々と予言通りに未発見粒子が見つかっていきました。そしてついに2012年には残された最後の素粒子「ヒッグス粒子」も、約48年越しに発見されたのです。素粒子標準模型はこの世界をうまく説明できているように見えます。

お菓子
(参加者に配布されたノベルティ菓子「絶対零子クォークチロルチョコ」。
up, down, top, bottom, charm, strangeの6種類のクォークにちなんだ絵柄。)

標準模型に残された最大の謎「重力」

しかし、標準模型で説明できるのは電磁気力・弱い力・強い力の3つだけです。自然界には重力も存在しますが、この理論に含まれていません。重力は一般相対性理論で「質量のある実体の周りで生じる時空のゆがみ」として説明され、そのゆがみの変化は「重力波」として実際に観測もされています。しかし、重力を他の力と同じように粒子のやり取りで記述しようとすると、計算の中で答えが無限大に発散しまうという問題が発生します。実は、この問題は電磁気力でもかつて現れましたが、そのときは計算をうまく整理する方法が見つかりました。ところが重力では、その方法が通用しません。そのため量子重力理論は現在も未完成のままです。

ただし、このことは理論の失敗を意味するわけではありません。実際、かつて弱い力を説明していた「フェルミ理論」も、同じような計算上の困難を抱えていました。しかし後に、より根本的な「ワインバーグ・サラム理論」の近似として理解されるようになったのです。このように、一見うまくいかない理論が、実はより基本的な理論の一部だったという例があります。現在の素粒子標準模型もその背後にある「究極理論」、つまり万物を説明する理論の一部なのかもしれません。

 

究極理論の候補「弦理論」

その究極理論の有力な候補が弦理論です。素粒子を大きさのない「点」ではなく、原子の10⁻²⁴倍程度という極めて小さな「ひも」として捉える理論で、開弦/閉弦の違いや、ひもの振動の仕方の違いが、素粒子の違いに対応すると考えます。粒子に大きさを持たせることで、これまで悩みの種だった発散の問題も解消されるのです。

ここで、弦理論の発展に重要な貢献をした人物を紹介します。北海道大学物理学科を卒業した先輩である米谷民明氏です。北大生ならぜひ知っておいてほしい人物です。もともと弦理論は、ハドロン(陽子や中性子の仲間)を説明するための理論として研究されていました。しかしその振動状態を詳しく調べると、質量ゼロでスピン2を持つ粒子が理論の中に自然に現れることがわかりました。これはまさに「重力子」の性質と一致します。この重要な発見を最初に示したのが、1973年当時、北海道大学大学院の博士課程に在籍中だった米谷氏でした。これは弦理論が単なるハドロンの理論ではなく、重力まで含むより根本的な理論である可能性を示した、画期的な結果でした。

しかしその頃は標準模型の完成に研究者の関心が向かっており、弦理論は一時期忘れられた存在になっていました。しかし1984年、グリーン氏・シュワルツ氏によって「弦理論に矛盾がないこと」が示されると、状況は一変します(第一次超弦理論革命)。さらに約10年後(第二次超弦理論革命)には、一見別々に見えていた複数の弦理論が実は同じ理論を異なる角度から見たものだという「双対性」や、「Dブレーン」と呼ばれる実体の重要性が発見され、弦理論の研究が大きく加速しました。

この宇宙は「ホログラム」か?

これらの成果を背景として登場したのがホログラフィー原理です。「重力のある世界」は、実は「重力のない、次元が一つ低い世界」を投影したホログラムなのではないか、という仮説です。

このきっかけとなったのがブラックホールの研究でした。ブラックホールはホーキング輻射という熱を放出し、事象の地平面の面積に比例するエントロピーのような物理量を持つことが知られていました。このエントロピーに対応する微視的な自由度が何であるかは長年の謎でしたが、弦理論を用いてあるブラックホールの自由度を数えると、たしかにこのエントロピーが再現されることがわかりました。重要なのは、エントロピーが、通常の物質とは異なり、体積ではなく表面積に比例することです。次元が一つ下がって見えるのです。さらに1997年に、5次元の重力理論と4次元の量子場理論が数学的に等価であると予想する「AdS/CFT対応」が提案され、ホログラフィー原理が具体的な形で実現されました。

これらの成果により、重力の理論と標準模型を一つの枠組みで考えられる可能性が開かれつつあります。

質疑応答の様子
(笑顔で学生の質問に答える杉下准教授。学生からの素朴な疑問に真摯に回答していただきました。)

残された課題とメッセージ

しかし、その先にはまだ数多くの未解決問題が残されており、現在も世界中で研究が続けられています。様々な側面からその有用性が確かめられてきた弦理論ですが、その実験的検証は進んでいません。また弦理論自体にも、まだ理論として完全な定義がないという根本的な問題が残っています。さらに、量子重力理論では時空そのものが確率的に揺らいでいると考えられますが、それをどう扱えばよいのか、明確な指針はまだありません。杉下准教授は、こうした未解決の問題に挑みながら、素粒子の世界の解明を目指しているとのことです。「皆さんの柔軟なアイディアがこれらの難問を解くかもしれません」と話します。

最後に、「皆さんの先輩である米谷氏は幅広いことに興味を持ち、積極的に自分で勉強していたようです。皆さんも、興味を持ったことは授業に関係なくどんどん勉強してほしい。」というメッセージで締めくくられました。

 

素粒子論の始まりから研究の最前線まで、盛りだくさんの内容をわかりやすくお話しいただきました。会場の参加者も熱心に耳を傾け、講義終了後には多くの質問が寄せられるなど、大変盛況な会となりました。

来年度も物理学科によるサイエンスグローブを開催予定です。お楽しみに!