物理学部門 速水賢准教授の論文が2件「Journal of the Physical Society of Japan」誌のMost Cited Articles2023に選出されました
Multiple Skyrmion Crystal Phases by Itinerant Frustration in Centrosymmetric Tetragonal Magnets, J. Phys. Soc. Jpn. 91, 023705 (2022)
この論文は、幾何学的に特異なスピン構造を有する「磁気スキルミオン結晶」の新しい発現機構について報告したものです。磁気スキルミオン結晶は、2009年にカイラル磁性体であるMnSiで観測されて以降、これまでに空間反転対称性の破れた磁性体において数多く観測されてきましたが、2019年以降になって空間反転対称性を有する磁性体においても観測されるようになりました。速水准教授らは、空間反転対称性を有する遍歴磁性体を対象とした数値解析を行うことにより、フェルミ面の不安定性に起因した波数空間におけるフラストレーション効果を通じて、正方格子型に配列した磁気スキルミオン結晶相が安定に存在できることを理論的に明らかにしました。さらに、外部磁場を印加することで、磁気スキルミオン結晶を特徴づけるトポロジカル数が変化するトポロジカル相転移を見出しました。今回の研究で得られた成果により、空間反転対称性を有する遍歴磁性体における磁気スキルミオン結晶の探索がさらに進展することが期待できます。
Electric Ferro-Axial Moment as Nanometric Rotator and Source of Longitudinal Spin Current, J. Phys. Soc. Jpn. 91, 113702 (2022)
この論文は、電気双極子や磁気双極子とは異なる新しい種類の双極子から構成される「フェロア
キシャル秩序」という電子相が示す新規物性現象を報告したものです。フェロアキシャル秩序は、
時間反転対称性および空間反転対称性の破れを伴わないことから、これらの破れを伴う磁性や誘
電性とは質的に異なる秩序状態であり、最近になって CaMn7O12、 RbFe(MoO4)2、 NiTiO3、
Ca5Ir3O12などの物質において実験的に観測されました。一方、時間・空間反転対称性の破れを伴
わないフェロアキシャルモーメントは電磁場と直接結合しないため、それらがどのような物性を
示すか、十分に理解されていませんでした。速水准教授らは、フェロアキシャルモーメントのも
とで発現する物性現象をマクロな対称性およびミクロな多極子基底の観点から整理することで、
種々の非対角応答現象を明らかにしました。さらに、結晶場やスピン軌道相互作用の効果を取り
込んだ模型を解析することで、フェロアキシャル秩序下で外部電場を印加すると、その平行方向
にスピン流が生成されるという新しい伝導現象を見出しました。今回の研究で得られた成果とし
て、従来とは異なる機構のスピン流生成が可能であることが示されたことから、新しいスピント
ロニクス材料としての応用が期待されます